東京家庭裁判所八王子支部 昭和62年(少ハ)4号 決定 1987年4月02日
少年 B・Y(昭42.4.12生)
主文
本人を昭和62年7月11日まで中等少年院に継続して収容する。
理由
本件申請の要旨は、上記本人は、昭和60年11月5日東京家庭裁判所八王子支部において窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺未遂保護事件につき、中等少年院送致決定を受け、同月7日八街少年院に入院したが、既に赤城少年院収容歴をもち、性格、行動面で自己中心的かつ規範意識に欠け、疎外感や対人不信の念が強く、些細な刺激で短絡的な衝動行為に結付く傾向が指摘されたことから、本人に対する教育目標を(1)規則正しい落着いた生活をする、(2)建設的な生活態度がとれるようにする、(3)勤労意欲を養う、の3点としその指導にあたつたところ、入院後4か月程は緊張した生活を続けていたが、昭和61年3月に物品不正授受の規律違反を起こして以来、他院生との喧嘩、口論、暴行、いやがらせ、生活態度不良などを繰り返し、謹慎、階級降下のほか、昭和61年8月19日及び同年11月29日の2回にわたり為された本人に対する仮退院申請をいずれも取下げるなどの厳しい態度で臨んだが、内省や自覚は不十分で、ごく最近まで規律違反を繰り返しており、現在、本人の問題点の改善に向け徹底指導中であるが、これまでの経過からみて、その収容期間が終了する昭和62年4月11日までに上記教育目標を達成することは極めて困難であり、なお若干の期間を必要とするので、出院後の保護観察期間をも含め6か月間の収容継続を申請する、というのである。
そこで以下検討すると、一件記録、家庭裁判所調査官○○作成の調査報告書及び本人の当審判廷における供述によれば、本人は八街少年院入院後、上記申請の要旨記載のような経過をたどり現在に至つていることが認められ、これによれば、なお本人の犯罪的傾向を矯正する必要があるのでその収容を継続すべきであるが、他方、本人の規律違反は9回に及んでいるものの、その内容は昭和61年3月26日の喧嘩、口論及び同年9月12日の暴行、嫌がらせ等の2回を除いてはいずれも比較的軽微な事案であり、本人に対する収容期間がその満了日である昭和62年4月11日には1年5か月を超えることになり、その間2回にわたり仮退院申請が取り下げられ退院予定が延期されていることを考えると、本件少年院送致決定の基礎となつた非行事実内容とも対比し、このうえ更に長期間の収容継続は相当でなく、特段の事情がなくこのまま経過すれば同年5月中旬には退院が予定されているので、退院後の不安定な生活状況等を考慮に入れても、その収容継続の期間は3か月を限度にこれを認めることが相当というべきである。
よつて、本人に対する収容継続の期間を昭和62年7月11日までとすることとし、少年院法11条4項、少年審判規則55条により主文のとおり決定する。
(裁判官 長崎裕次)
〔参考〕 収容継続申請書
収容継続決定申請書
東京家庭裁判所八王子支部 御中
昭和62年3月1日
八街少年院長 ○○
少年氏名:B・Y 昭和42年4月12日生
本籍:鹿児島県大島郡○○町大字○○××番地
上記少年は昭和60年11月5日貴裁判所において、少年院送致の決定を受けたもので、昭和62年4月11日期間終了となりますが、別紙理由によりなお矯正教育の必要があるものと認められますので、少年院法第11条第2項以下による収容継続の決定を賜りたく、申請いたします。
なお、少年調査記録を同送いたします。
保護事件番号:昭和60年少第2342・4029号
担当裁判官:○○
収容継続を必要とする理由
1 処遇経過
年月日 処遇経過
60.11. 7 八王子少年鑑別支所から入院 2級下編入
11.13 予科教育過程編入
61. 1. 1 中間前期教育過程編入 2級上進級
1.13 中間中期教育過程編入
3. 1 1級下進級
3. 3 課長説論(物品不正授受)
3.19 中間後期教育過程編入
4. 2 謹慎7日(喧嘩・口論)
5.12 出院準備期教育過程編入
5.29 課長説論(生活態度不良)
6.19 謹慎4日(生活態度不良)
8. 1 1級上進級
8.19 仮退院申請
9.25 委員面接
10. 2 謹慎20日(暴行・いやがらせ) 1級下降級
仮退院申請取下げ
10.27 1級上復級
11. 6 謹慎7日(生活態度不良)
11.29 仮退院申請
12.20 謹慎15日(教唆)
仮退院申請取下げ
62. 1. 9 院長訓戒(通声)
2.13 謹慎3日(生活態度不良)
2 心身の状況
(1) 知能IQ:94
視野が狭く、見通しを持った行動ができにくい。
(2) 性格
自己中心的。被害感や対人不信が強く、快・不快の感情で場当たり的行動が多い。規律、秩序に対する認識は安易で内省が深まらない。
3 保護環境
実父母は昭和56年5月に離婚。現在、実父・妹・弟の3人が都下国立市内の都営団地(3LDK)で、実母・兄の2人は実母の実家である東村山市で生活している。昭和59年に少年が起こした単車事故の弁償を父が、その他の借金等については母が支払っている模様であるが、それらの取り立てにヤクザ者がからんでおり父及び母は少年を引き取った場合、自分たちの家庭が破壊されることを畏怖し引き受けを拒否している。現時点では東京都内の更生保護会に帰住することが決定しているが、将来父の許への帰住は可能である。
4 収容継続の必要性
少年は昭和60年11月7日、窃盗事件で八王子少年鑑別支所から入院した。赤城少年院収容歴をもち、性格・行動面で自己中心的で規範意識に欠ける点や疎外感や対人不信などから些細な刺激で短絡・衝動行為に結びつく傾向が指摘されたことから、当院での個人別教育目標を<1>規則正しい落ち着いた生活をする、<2>建設的な生活態度がとれるようにする、<3>勤労意欲を養う、の3点とし指導にあたった。
入院後4か月程は緊張した生活を続けていたが、61年3月に物品不正授受の規律違反を惹起して以後、現在まで前記処遇経過のとおりの行状で院内成績は極めて不良である。特に、10月2日には暴行・いやがらせ事犯で謹慎20日、1階級降下、仮退院申請取下げの厳しい態度で臨んだが、内省や自覚は不十分で、ごく最近まで規律違反を繰り返している。現在、本人の問題点の改善に向け、徹底指導中であるが、入院以来今日までの経過から判断し、当院での収容期間が終了する4月11日(満齢)まで、当初設定した個人別教育目標を達成することは極めて困難である。
家庭的な愛情にあまり恵まれずに成育した面など同情の余地はあるが、今ここで健全な価値観と生活習慣を体得させないと再犯も危惧される。出院後の帰住予定地が更生保護会であることから保護観察を通じて予後の万全を期すことが適当と判断されますので保護観察期間も含め6か月間の収容継続を申請いたします。